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小説「永遠の旅行者」 (橘 玲著)

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約 4 分

あらすじ

タイトルにある永遠の旅行者は、別名PT(パーチュアル・トラベラー)。居住者と見なされない範囲で複数の国に滞在する事で、合法的に無税化出来る節税法の一つで、主人公の真鍋もその一人。

 

そんな主人公だが、実は元弁護士。道を外れたきっかけは、仕事がらみで同僚が自殺した事。司法の掲げる崇高な理想と現実の落差に苦しんでいた事も背中を押し、職を手放す事を決意する。

 

以降、ハワイや日本を転々とするPTとして生き始め、昔の知見を活かし時々表沙汰に出来ない困り事を助ける仕事を始める。そうやって時間を過ごす折、麻生という富豪から日本国へ一銭も税金を払わずに孫へ資産を相続してくれるよう依頼がある。

 

相続額は億単位。当然懐疑心を抱くが、ストーリーを通して少しずつ依頼を引き受ける方向で話が進む。
そこに待ち受けているのが、麻生と彼に関連する人物に隠された暗部。引き返す事が出来なかっくなった真鍋は、彼らの暗部に引き込まれながらも依頼を遂げるため奔走する。

感想

マネーロンダリング、タックスヘイブンに続く金融小説で、上下巻ともに見応えの高い作品だった。本作で気になった点を、下記にまとめてみる。

主要人物の闇

主要人物が抱える闇の深さに怖さを感じるほどだったが、それでも読み進めずにはいられない深さがあった。

 

シベリアに抑留された麻生騏一郎は、助けのなかった日本国を死ぬまで恨み続け、彼の息子悠介は母親と自身の妻の早すぎる死に直面し、母親の死の原因を作った父を恨む。

 

悠介の娘まゆは、目の前で自分の母親を殺され精神に異常を来たす。普通に生きる事もままならくなる中、騏一郎からの相続の影響で、親戚の権田など金目当ての連中に追われるという悲惨な状況に直面する。

 

そんな麻生一家を襲った黒幕の長井も、実はシベリア時代に金井や麻生を苦しめた吉原の子孫。実は吉原は帰国後何者かに殺されており、犯人の疑いを掛けられた麻生の事を、呪いの言葉のように母から何度も聞かされる事で、麻生一家に恨みを持つようになった。

 

こうした私恨の脈が、最終的に物語を最終地点に運んでいく。シベリア拘留がなければ麻生が長井に恨まれる事もなかった事を考えると、この事件を安易にとらえる事は出来ない。そんな奥の深さがこの物語には感じられる。

 

永遠の旅行者という生き方

橘玲氏の小説は、金融知識が着くという意味で本当にタメになる。今回スポットライトが当たったのは永遠の旅行者。冒頭で述べた通り、税金回避方の一つだ。

 

その理想の姿は、国籍は日本、ビジネスは香港か上海、居宅はオーストラリア、資産運用はスイス、余暇は世界中を旅する事らしい。私生活でこんな人物お目にかかって話を聞けることなんてまずないので、こういった事例を知れるだけで知的好奇心が満たされる。

 

そしてそれを主人公が実践し、ロールモデルとしての姿を見せてくれるだけでなく、その他の租税回避法も教えてくれるオマケ付き。勉強になる。

 

予想外の黒幕

初期の長井は小物感が漂う人物で、人殺しも出来なさそうな青年というイメージ。そこからのどんでん返し、まさかの黒幕という設定。

 

権田や、堀山・神崎といった胡散臭い人物がてっきり犯人かとイメージしていただけに、この展開は予想外だった。そういう意味で、ミステリーとしても楽しめる作品だと思う。

 

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